橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

たむらしげる『ロボットのくにSOS』

今からウン十年前、幼稚園でもらった絵本に再会です。 やっぱり記憶どおり、よい絵本でした。 いい本、必要とされる本は、きっとなくならずに、ずっと存在していくのですね。 町や地底、ロボットの国の様子が魅力的に描かれていますし、登場人物、動物みんな…

幸田文『闘』

幸田文作品で、未読だったため手にとりました。日常の空き時間をあてての読書で、思いのほか読むのに時間がかかってしまいましたが、とても面白かったです。 幸田文の「正確な文章による丁寧な描写」を追うという、贅沢で密度の濃い読書時間が過ごせました。…

恩田陸『蛇行する川のほとり』〈1〉〈2〉〈3〉

夏に読みたい本のひとつです。 文庫本も出ているようですが、新書サイズで3冊に分けられているタイプのほうが、読むのが楽しいと思います。 なぜかというと、それぞれ語り手が違うので切り替えがしやすく、また、装丁が3冊とも色の違うシンプルできれいなも…

追憶の友②『12のつきのおくりものースロバキア民話(こどものともセレクション)』内田莉莎子再話

今でもよく覚えている絵本です。 マルーシカという名の主人公が、姉のホレーナと「やもめ(初めて知った言葉でした)」に虐げられているところから始まります。例えば寒い冬の日に「すみれをとってこい」と言われて家を追い出されてしまうのです。この状況は…

追憶の友①あきやまじゅんこ『チョイのちいさなかご』

友人(ヒト)が子育てをしています。 私はおせっかいにも、以前、宮崎駿『本へのとびらーー岩波少年文庫を語る』をあげました。 幸い気に入ってくれたようでホッとしたのですが、まだ幼児には早いのもあって、話題は絵本に。それで、子どものころにどんな絵本…

井伏鱒二『井伏鱒二全詩集』

先日、枝豆を茹でて、井伏鱒二の「逸題」という詩を思い出しました。 こういうもの。 (岩波文庫『井伏鱒二全詩集』P24) 今宵は仲秋明月 初恋を偲ぶ夜 われら万障くりあはせ よしの屋で独り酒をのむ 春さん蛸のぶつ切りをくれえ それも塩でくれえ 酒はあつ…

江國香織『ホリー・ガーデン』

学生のときに読んだ江國香織さんの作品群の中で特に印象に残っている一冊。 同時期に文庫を持っていた『流しの下の骨』『神様のボート』『きらきらひかる』も文章を今でも覚えているほど、当時繰り返し読んだものです。 いろいろな人たち(多くは女性)の生…

幸田文『どうぶつ帖』

すべての動物好き必読の本です。 (幸田文の文章をよく読んでいた私は、おそらく影響を受けて「だ・である体」で書くことにしていたのだと今さらながら気づきました。そして、自分の身の丈に合わないというか、かっこつけすぎたと反省したため、「です・ます…

長田弘『ことばの果実』

毎年遠方から野菜を送ってくれる友人に、今年はお中元として「読む果物」を贈ることにした。 それが本書『ことばの果実』だ。 自分用にも探してみたが、もうネット書店では扱っていないようで、復刊が待ち遠しい。 幸い新品が存在するときに手に入れられたの…

エルジェ『タンタンの冒険』シリーズ

小学生の頃に図書館に行ったら、未読の本がないか必ず確認しに行っていた。 当時、たくさんある話をとびとびに読んでいたので、時系列には整理しきれず、話の意味もわからなかったところ多々だったと思うが、セリフが面白くて読み込んで覚えるほど気に入って…

三羽省吾『イレギュラー』/さとうさくら『スイッチ』

前回から続き、若い方に偶然手に取ってもらえるなら「ぜひこれを」と思う本の2冊目。 三羽省吾『イレギュラー』 漫画が好きな人なら楽しめるのではないだろうか。表紙のボールが印象的。 本書は、水害にあった町の高校の野球部と、エリート野球部の交流のな…

金城一紀『レヴォリューションNo.3』

読書好きとして、ちょっと言いにくいけど言いたいことがある。 「これ読んでみて」だ。 特に、本を読まない人に「読んでみて」というのは、なかなか言いにくい。 意に沿わないことを「強要された」と感じさせる可能性が高いし、また、自分の趣味を押し付けて…

中島敦『悟浄出世』『悟浄歎異』

『山月記』『名人伝』など有名どころは色々な本で読むチャンスがあるが、それ以外の作品に触れるには受け身ではいけない。前進あるのみだ。 私は、『中島敦』(ちくま日本文学) を図書館で借りて、欲しくなりその後買い求めた。古典の注釈の多くは巻末につい…

寺村輝夫『こまったさん』シリーズ

なつかしの「こまったさん」。 先月、書店にてキャンペーンが行われていたらしい。(うちは田舎のため大型書店がなく残念) 中川李枝子さんが著書で、25年以上経った絵本は本物と書いていらっしゃったが、こまったさんは誕生から39年だそうだ。 同じ著者の本…

米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』

タイトルからどんな本かを推測しようとするのは難しいのではないだろうか。「オリガ・モリソヴナ」とは人の名前だ。 物語の舞台はロシア共和国。日本列島の場所によっては隣国、とはいえ、ちっとも身近ではなく、なぜかなんとなく不気味で得体の知れない国に…

小林秀雄『読書について』

多くの人が読書について書いている。 本好きが書くため、多読を進める意見が多いが、様々な視点からの意見もあり面白い。 例えばショーペンハウエルは、多読の危険性を説いた。 読書好きによる様々な意見がある中で、多読を当然のこととしていて、且つ、読書…

吉村昭『漂流』

著者による作品のなかで(現時点で)ダントツに面白く、読後強く印象に残ったのが本書。 読めば、一人で「なんだか寂しい」なんてつぶやく自分にさようならだ。 主人公の長平は土佐の国の水主。米を運ぶ仕事を終え帰路の途中、悪天候により船が難破し、黒潮に…

金田一秀穂『日本語大好き キンダイチ先生、言葉の達人に会いに行く』

自己紹介で名乗ると、「ああ、あの名探偵の…」と言われたことがあるという(出典失念、どこかで読んだ)金田一先生。本家、金田一耕助氏も「アハハハハ…」と哄笑するであろう楽しいエピソードだ。 金田一先生、と書いているが、学生だったわけでない。以前、…

エラリー・クイーン『オランダ靴の秘密』

数あるクイーン作品のなかで、なぜこれを挙げたのかというと、初めて犯人をあてた話だからだ。 「国名シリーズ」と言われるらしい順番で言うと3作目。嬉しくて解決編では思わず声を上げてしまった。 1作目は推理する気もなくさっさと解決編を読んでしまい…

吉屋信子『あの道この道』

執筆時、昭和初期。当時の少女たちが夢中で読んだという本書。 私が読もうと思ったきっかけは、田辺聖子さんのエッセイ『一生、女の子』で、吉屋信子さんの本が子どもの頃から大好きだと書かれていたからだ。 そうと決まれば先駆けて、内田静枝(編集)、弥生…

石井桃子『幻の朱い実』

編集者、作家であり、また数々の絵本、児童文学の翻訳をされ、戦後東北で農業や酪農もされ、子どもの図書館をつくり、エッセイもたくさん書かれた…等々、言わずと知れた石井桃子さん。 名前を知らなくても、子どもの頃に絵本を介してふれあっていた方も多い…

長田弘『読書からはじまる』

本を読むことが好きなので、題名に「読書」とつけられている本を見かける度に手に取っている。 図書館で偶然、本書を目にして読んでみて、出会えたことに感謝した。 とても易しい言葉で書かれているのに、なんと重厚な内容なのだろうと驚いた。 読書について…

本との交友録

本の友だちは一生その人と共にある。 こうして生涯話しあえる本と出あえた人は仕あわせである。 石井桃子 私には、本の友人がたくさんいる。 人の友人と違い、際限なくどんどん増えていく。 友人は大切にしたい。そのため、今いちど、頭の棚を整理し、楽しく…