著者による作品のなかで(現時点で)ダントツに面白く、読後強く印象に残ったのが本書。
読めば、一人で「なんだか寂しい」なんてつぶやく自分にさようならだ。
主人公の長平は土佐の国の水主。米を運ぶ仕事を終え帰路の途中、悪天候により船が難破し、黒潮に乗って、無人島である鳥島に漂着する。
著者は冒頭で、戦後南の島々で見つかった元日本兵について記述しており、それらの人たちと、江戸時代の漂流者について、どちらも犠牲者であったと書いている。
当時の船は千石船と呼ばれる運送に適した船だったそうだが、構造上シケに弱く、舵が壊れやすいという難点を持っていたそうだ。加えて、鎖国政策によって西洋の進歩した航海術をとりいれることもできず、また、外洋を自由に航行できるような船をつくらせまいと、沿岸航海にのみ適していた千石船が利用されていたらしい。長平たちも、奮闘虚しく為すすべもなく、神に供えるため髷を切り、祈願するしかなかったという事実に驚いた。全然覚えていないが、本書が映画化されたときの映像には、確かに落ち武者みたいな男たちが映っていた気がする。
無力な読者である私は、長平が体験する恐怖や困難に、読みながらあわあわするだけである。
無人島に漂着した後、長平は前向きに生きようとする。それでも、常に孤独が襲ってくる。
火もない中、たった一人で風や波の音を聞く闇夜の恐ろしさは計り知れない。
読後、例えば夜に一人暮らしの静かな部屋でふと孤独を感じたとしても、究極の孤独を体現していた長平のことを思うと、たいていはどうってことないと思えるのではないだろうか。
長平の漂流記の過酷さに比べたら、ロビンソン・クルーソーなんて、ソロキャンプではないのか!
日本地図の下を指で辿り、鳥島を見つけると、こんなところでよく…と途方も無い気持ちになる。
台風、トビウオやアホウドリなど自然の描写も印象的だ。
漂流した約13年の間に転機は何度かあるが、やはり長平は孤独だ。彼にとっての最初の3年で、もとの長平から全く違う長平へと変わってしまったのかもしれない。
後半は祈りながら読み進めた。
本書は、孤独について考えさせてくれ、人の無力さと、強さを教えてくれる友人である。