橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

追憶の友①あきやまじゅんこ『チョイのちいさなかご』

 

友人(ヒト)が子育てをしています。

私はおせっかいにも、以前、宮崎駿『本へのとびらーー岩波少年文庫を語る』をあげました。

幸い気に入ってくれたようでホッとしたのですが、まだ幼児には早いのもあって、話題は絵本に。それで、子どものころにどんな絵本を読んでいたかと私に聞いてきてくれました。

なんて楽しい話題なのでしょう。たくさん浮かんできました。

絵やフレーズなども、ちゃんと覚えていて驚きます。

自分が幼児のときは、子どものために手をかけて作られた物が、数も種類も今よりずっと多かった気がします。

思い返してみて、大人になってからも自分を支えてくれそうな栄養が詰まった絵本がたくさんあることに改めて気付かされました。

幼児のときに読んだ本は、果たして今でもあるのかしらとネットを渉猟。それだけでも楽しく、また蔵書が増えてしまいそうです。そして、多くの本がいまだ現役で健在なことに感謝の言葉を言いたくなりました。

一方、もう手に入れられない本もいくつかありまして、それが今回とりあげる『チョイのちいさなかご』です。

幼児のとき読みましたが、今でもかわいいネズミの絵を覚えています。まあまあリアルなネズミだったはずですが、それでも「かわいい」という印象の。

「イラスト」よりも、「絵」と呼びたいようなネズミたち。そして、たくさんのおいしそうな野いちごやら木の実などが落ち着いた色でいて、鮮やかに描かれていたはずです。

今もそうだけれど、子どもの頃は特に食べ物の絵が描かれている本に心惹かれました。字はまだよく読めなくても繰り返しその絵を眺めていたものです。

お話はシンプルでハッピーエンド。それで十分。

ひねりとか、どんでん返しとかは、刺激的で面白いけれど、たくさんの本を読んだ人向けだと思います。

もちろん、それらも必要なのですが、食べ物に例えると、白米に漬物などのそれだけでも十分おいしくて、なくてはならないもののような、素朴だけれど大切な絵本がもっと溢れていてほしいと思います。

特に、昨今の厳しい時代に在るたくさんの小さい人たちの周りにあってほしいと思います。といいつつも、大人にだって必要なのかもしれません。

本書は、いま読めないけれど鮮やかな記憶をもたせてくれている友人です。