橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

宮部みゆき『名もなき毒』

職場に自己愛性パーソナリティ障害とみられる人がいます。

最初は「性格が悪い人だな」と思っていたのですが、つい先日「言動が異常だな」と感じて調べてみたら全ての特徴が当てはまり、今まで心の中で「どうしてなのでしょう」と不思議に思っていた数々の疑問が腑に落ちました。

一緒にいると不快な気持ちになる人なので、なるべく距離をとろうとしていたのですが、業務上どうしても伝えないといけないことがあり、話をしているときに琴線に触れてしまったようでした。その後、明らかに(遠回しながら)「攻撃されている」と私の草食動物的知覚が察知し、その週末は自己愛性パーソナリティ障害について調べて対策を練りました。

そして、週明けの朝一番で謝罪をしたら、敵認定が解除されました。本当に目に見えて武装解除されたのがわかって驚きました。早期発見早期対処は鉄則ですね。病気やハチの巣のように。

今ではいっぱしの専門家並にその人の一挙手一投足を説明(もちろん心の中で)できます。正常な感覚で接すると相変わらず私の心は非常に不快なのですが、人格障害だと思っていれば改善を望む気持ち(期待と言い換えてもいいかもしれません)はなくなりました。当人を傍から見ていると、とても単純な思考回路なので「そんなんでいいのですか…」と尋ねてみたくなるくらいです。

それで、過去に読んだ本書を思い出しました。

「パーソナリティ障害」という言葉は出てきていませんが、厄介な女性が登場するのです。

職場の人は、本書の登場人物ほどに極端ではないですが、自分自身を冷静かつ正確に認識できない&現状を受け入れられず満足できない点は同じようなものです。

200人に1人はいるのだそうで、どの職場にもいるかもしれませんね。

余談ですが「パーソナリティ障害」という名称になったのは「人格障害」というと差別めいて聞こえるから、という意見を知りました。どちらも意味は変わらないのに。

片仮名にすると、日本人は英語を理解していないから意味をぼやかすことができるということなのかしら。こういうぼやかしの繰り返しが無責任社会をつくってきたのかもしれません。

本書は題名にもあるように「毒」が主題です。

その後の主人公を知っているので、改めて読み返した今回は、主人公自身も幸せに隠れている微小な毒に少しずつ蝕まれていっているような気もして新鮮な気持ちになりました。

価値観の違いや、善良がゆえに感じる葛藤や違和感。

例えば、奥さんが土壌汚染について話している場面で、奥さんの様子を「小学生の女の子のように」という言葉を2度使い、セリフを「吐いた」と説明していたのに気づきました。初読とは違う面白さがありました。

最近忙しくてゆっくり読書する時間がとれなかったのですが、通勤の電車内や空き時間に夢中になって読みました。さすが宮部さんです。展開がスリリングで一気に読んでしまいました。

読後、職場の人はここまで厄介な人でなくてよかった、とも思えました。

故意かどうかはそれぞれですが、自身の言動で他人に毒を与える人は存在します。

その毒をいかに避けたり、耐性を得たり、解毒したりするかがとても難しいことなのですが、自分を守るために考えていかなければなりません。

何より、自分は周りを害する人にならないようにしたいものです。

でないと、楽しくないですから。

本書はだれでも関わり得る「毒」について考えさせてくれる友人です。