橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

エラリー・クイーン『オランダ靴の秘密』

数あるクイーン作品のなかで、なぜこれを挙げたのかというと、初めて犯人をあてた話だからだ。

「国名シリーズ」と言われるらしい順番で言うと3作目。嬉しくて解決編では思わず声を上げてしまった。

1作目は推理する気もなくさっさと解決編を読んでしまい、2作目では考えたもののわからず、エラリーについては「ええい、このフランスかぶれの理屈野郎め」と毒づきたくなっていたのが、謎が解けると仲間のように感じ、一緒に「アロール」「エルゴ」などとつぶやくのだから現金である。(それでも本は怒らない。)

この作品以降、作者が読者を飽きさせないためか、ひねったものが多いように感じる。それで、犯人にたどり着けず敗北感を抱くことが多いのだが、本作はその点シンプルだと思う。

 

エラリー・クイーン作品の好きなところは、読者に対する公平さだ。

例えば、シャーロック・ホームズは、ホームズしかしらない知識や、当時の社会風俗などが後にならないと示されないことが多いが、エラリー・クイーンは事件に関する情報をきっちりと文章のなかで示し、読者に挑戦状をくれる(それを全て日本語にする翻訳者は特殊能力者であろう)。ちゃんと読み込めば必ず犯人はわかる、とクイーンは挑みかけている。そんなの、わからなければ悔しいではないか…!そのため何度も読み返すことになるのだ。だから犯人をあてても外してもその後忘れることはないし、時間をかけたことにより、読んでいた時期のことも一緒に思い出せる。

もちろんホームズにはホームズの面白さがあるし、ノンストップで読んだアガサ・クリスティー作品(特にミス・マープル)などは、なぜか数年後全く犯人を覚えておらず再読して楽しめるなどのよさもある。

私はだいたい新訳のクイーン作品を読んでいる(レーンシリーズの一部は図書館で借りたため別の翻訳)のだが、ひとつ困っているのが表紙の絵だ。別の場面で見ると素敵なのだろうが、本書には全く合っていないと思う。同社レーンシリーズのようにシンプルに、例えばトランプのクイーン柄に靴でいいのではないか、と思わずにはいられない。

 

 それでも、私は読む。エラリー・クイーン(2人の作家のペンネームだそう)は、推理小説の面白さを教えてくれたうえに、読解力を伸ばしてくれた1930年代の大切な友人である。