前回から続き、若い方に偶然手に取ってもらえるなら「ぜひこれを」と思う本の2冊目。
三羽省吾『イレギュラー』
漫画が好きな人なら楽しめるのではないだろうか。表紙のボールが印象的。
本書は、水害にあった町の高校の野球部と、エリート野球部の交流のなかで、若者たちが成長してゆく青春小説である。
というと、説明が足りない気もする。爽やかというよりは、お下劣というか、泥臭い感があるのだが、愛すべき登場人物たちを見守り、その世界を楽しむとよいではないか!と思う。
読むうちにキャラクターがそれぞれ目に浮かび、随所のツッコミも鋭く、たとえやエピソードも楽しいのである。例えば、主人公の所属する野球部のメンバーを見た人がつぶやく感想が「がんばれベアーズみたいだな」とか、強豪校の外国人ピッチャーから、メンバーの一人がホームランを奪ったときのこと(みんな見ていない!)を、「交通事故のような音がした」とか。
特に印象深いのは、急性の腹下しを「ぶべらぼん」「ぎゃらぐわ」(もういっこある)という、それ以外ありえないと思えるオノマトペで表しているところで、文字で笑えるおかしさがある。これを漫画にすると面白さが減ってしまうような気がする。
現実ではありえない状況も、「あるか…うん、まあ、あるある!いけーっ!」と思わせてしまうような勢いがあるので、若い方でなくとも、または普段硬めの本を読む人でも、その勢いに身を任せ、一気に読んでみるのも一興。
水害というテーマを扱いつつも、野球を通しての、皆の前向きで一生懸命な姿に元気をもらえるはずだ。
「みんな今頃どうしてるかな?」と読後何年も経った今も、時折思い出す友人である。
3冊目は、最寄りの図書館では現在書庫に入っているこの本。
さとうさくら『スイッチ』
小中高生よりも、短大、大学、専門学校などに通う方たちの行く書店に置いておきたいと思う本である。
実は、もう何年も読み返していない。手元にもなくなってしまった。けれどもいまだに印象は鮮明だ。やはりこの小説の主人公と近い年齢のときに何度も読んだからだろう。余談だが、もしかすると文庫版カバーイラストで、当時敬遠した人がいるかもしれない(鈴木亜美が帯にコメントを寄せていた、という記憶あり)。その点、単行本のほうがシンプルだ。もうひとつ申し上げると、「日本ラブ・ストーリー大賞」の副賞作品だそうだが、ラブ・ストーリー要素はそんなに強くないと思う。
主人公の苫子(とまこ)は、私ならそこまではしない、と思うようなことを愚直に律儀にどうしようもなくやっている。それは本質的に苫子自身のせいでもあるのだろうから、それを観察することが自分自身をも客観的に見るきっかけになってくれたと思う。
苫子のような自分は大なり小なりある、そう思うから、目が離せないし、「と、苫子…しっかり!」と伝わらなくても伝えたくなっていたのだろう。
なんだかんだで苫子は働き、好むと好まざるとにかかわらず人に出会い、向き合い、振り回される。
不器用で満身創痍の苫子は、体を張って、読む者に自分を振り返らせたり、他人を観察させてくれたりするはずだ。
読後、希望を願う自分も見つけられた。
「苫子、元気にしているかな」と、ある時ふと思い出す懐かしい友人である。