橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

金城一紀『レヴォリューションNo.3』

 

読書好きとして、ちょっと言いにくいけど言いたいことがある。

「これ読んでみて」だ。

特に、本を読まない人に「読んでみて」というのは、なかなか言いにくい。

意に沿わないことを「強要された」と感じさせる可能性が高いし、また、自分の趣味を押し付けているように感じるからだ。実際そうなのだけれど。

それでも本好きな人が増えると嬉しいので、言いたい気持ちはもちろんある。

スマホとの対比で、「本離れ」が、取り上げられることがあるが、一方で、SNSなどを見ると、本好きな人もたくさんいるようだ。

私も毎日本を読んでいる。もう若者ではない世代の一人。

果たしていまの若者はどんな本を読んでいるのか、2020年の『読書世論調査』(毎日新聞社)を見てみる。

小中高生が1ヶ月に読んだ書籍(教科書、漫画、雑誌以外)のラインナップを見ると、学年が違っても同じ名前の本が何冊か目につき、書店にたくさん並んでいる本、話題になっている本の影響が感じられた。

また、同調査によると、若者に限らず日本人の全世代を合わせた書店に行く頻度は「少くとも月に1度」「少なくとも週に1度」「ほぼ毎日」を合わせると48%で、半数近くが書店を訪れているそうだ。

見回せば、書店は商業施設内や、駅近くによくあるので、ふらりと立ち寄りやすいのだろう。皆が書籍だけを求めて行っているわけではないだろうが、書籍(特に最新の)を手にする機会は、きっと図書館よりも多いであろう。

しかし世の中には、過去からの蓄積と、日々様々なジャンルの新しい本がつくられる結果として非常に多くの本がある。そのような中、棚や店舗面積は無限ではなく、我々が手に取れる選択肢は実は限られてしまっていると言えるのではないか。

では、私が書店員だったとして、若者が手に取る本の選択肢として、棚にこっそり紛れ込ませたいと思う本の友人を以下、3冊挙げる。

(もっともらしく長々と書いたのだが、簡潔に述べると、「これ読んでみて」と言いにくいので、若い人に偶然手にとってもらえることを期待し、棚に置いておきたい3冊、を以下書いていく)



金城一紀レヴォリューションNo.3』

 

『THE BOOKs green365人の本屋さんが中高生に推す「この一冊」』でも紹介している方がいらっしゃった。

私は学生時代に偶然書店で手にとり、電車で読み始めて笑いがこらえられず、読むのを中断した本である。

最初に買った、表紙が顔のアップのイラストのは人に貸して返ってこず、2冊目に買った表紙がゾンビーズ大集合のイラストのも誰かの手にわたり、今持っているのは文庫本である。

しかし、別になくても平気だ。なぜなら、今まで繰り返し読んで覚えているからだ。

私はゾンビーズのような同級生、アギーのようなコスモポリタン志望の人、山下のようにツキのない人、スンシンのような強い男や、マンキーのような暴力教師などを知らなかったからこその楽しい世界だった。

もちろん、楽しいばかりではないのだけれど、それも含めて多大なる元気をもらった本である。

この小説がきっかけで、その後のシリーズ作品と他の著書のみならず、ドクターモローやヒロシが読んでいたコンラート・ローレンツの本と、南方が読んでいた川端康成伊豆の踊子』を読んだ。スンシンの読んでいた本はいまだ手を出せていないが、きっといつか読むだろう。

 

コロナ禍で、もしも孤独を感じる若者がいるならば、言いにくいんだけれども「これ読んでみて」と言いたい。更におせっかいを言えば、小中高で友達がいなくて孤独を感じている人には、「小中高で友達がいなくても別に大丈夫!」と、ワタシ(現在、小中高の同級生の誰とも全く連絡をとりあっていなくても元気で楽しい)は、大きな声で言いたい!

みんなきっとそれぞれ生きている。自分も自分で生きていけばよい。お互い元気にいけたらいいねえと思う。

もし身近に親しい人がいなくても、本がある。できれば、読んで楽しい気持ちや元気になる本がいい。

そういえば動画も、見ると楽しいものだ。本と違うところは、自分が静止していても勝手に流れてくるから、見るほうは受け身。本は自分が動かない限り、話が進まない。なので、継続して働きかける必要がある。その本との関係から、人との関わり方も練習できるような気もする。(本は、読まない人のことをずっと静かに待っていてくれる&読み始めたら直ちに誰でも受け入れてくれる、という人との違いもあるけれど)

繰り返しになるが、いま孤独でも絶望することはない。自分が楽しそうにしていると、人は寄ってくるはずだから、それまでは、本書の楽しい人たちに思いを馳せていたっていいのではないかと思う。

 

話がそれてしまったが、本書を読んだ後、サングラスをかけている人を見ると、頭の中で南方の台詞が浮かんでしまうようになった。そのあとの皆の様子もセットで浮かんで、今もずっと楽しい友人だ。