橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

江國香織『ホリー・ガーデン』

 

学生のときに読んだ江國香織さんの作品群の中で特に印象に残っている一冊。

同時期に文庫を持っていた『流しの下の骨』『神様のボート』『きらきらひかる』も文章を今でも覚えているほど、当時繰り返し読んだものです。

いろいろな人たち(多くは女性)の生き方、ライフスタイルを思い描きながら読んでいました。自分とは違う、都会で働く大人の女性たちについての日常エピソードに憧れたものです。今の若い方たちがSNSなどで他人のライフスタイルを垣間見る感覚で読んでいたように思います。

本書の舞台は、まだ固定電話が主流の時代。29歳の、今でいう「こじらせた」女性2人のお話とでも言ったらいいでしょうか。友情に重きをおくというには少し棘があり、恋愛に重きをおくというには淡々としている印象です。それでも、主人公の一人にとっては再生の日々が描かれていると思います。もう一人のほうは…本人は成長していると言い張る気もします。

どちらの主人公とも少し(特に果歩ちゃん)性格が変わっているので、なんというか不思議なお話です。それでもちゃんと現実世界を生きています。読むと、果歩ちゃんはよく自分の苦しい状況を説明しています。「孤独が服を着て歩いているみたい」などと。こうやって、言葉で自分の状況を説明して客観視できれば、自分の置かれている事態・状況は少し軽くなるかもしれないと思います。気分によって、いろいろな詩の暗唱もよくしています。

彼女たちの年齢をとっくに過ぎた自分が思うことは、それぞれ愛おしい女性たちだということです。友達にしたいかというと、正直言うと考えます…。少々面倒くさい方たちなので…。しかも果歩ちゃんには、きっと名前を覚えてもらえないと思います。

何か大きなストーリーの流れがあるわけではありません。そのぶん、場面ごとを楽しめるのではないかと思います。随所に出てくる様々な小物や食べ物や飲み物が、その場を彩り素敵です。インスタグラムではないですが、文章によってそれぞれの場面が映えているようです。

ラムネをラッパ飲みする場面(「ラッパ飲み」という言葉はもはや死語でしょうか…)で、「のどがぴりぴりする」や、いつもつけている香水の名前で書かれている女友だち「オーデコロンエルメス」、バタつきパン蝶のお茶の色、食器を割る音、など五感を刺激する文章が多いと思います。江國香織さんの力が炸裂というか、爆発しているようです。

もう20年以上前の作品なので、図書館では書庫に入っていることが多いのでもったいないと感じています。今なお、読むことで力をもらえる人もいるのではないかと思います。

本書は、文章を覚えてしまっていても棚に大切に置いておきたい友人である。