橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

幸田文『どうぶつ帖』

 

すべての動物好き必読の本です。

幸田文の文章をよく読んでいた私は、おそらく影響を受けて「だ・である体」で書くことにしていたのだと今さらながら気づきました。そして、自分の身の丈に合わないというか、かっこつけすぎたと反省したため、「です・ます体」で書くことにしました。)

たくさん読んだなかで、本書をあげたのは、動物好きにはたまらないお話がまとめて読めるから、それと、筆者の動物好きに強く共感するからです。

 

本書は、第1部は犬の話、第2部は猫の話が随筆だったり小説だったり色々あります。筆者は犬も猫も飼っていたとのことで、巻末の猫の「阪急」ちゃんとの2ショットは微笑ましいです。

第3部は動物の話で、同著『動物のぞき』から厳選された文章が載っているのですが、『動物のぞき』はもう古本しか出回っていないようなので、本書は著者の目を通した多くの動物(上野動物園の動物)が読める貴重な場だと思います。

 

自分が子供のときに雑種犬を飼っていたのもあり、「町の犬」が本当に楽しんで読めました。これを読んで、本書を手元に欲しいと思ったのでした。

おそらく実話に基づいた小説なのだと思いますが、主人公が飼う初代と二代目の犬との濃密な関係のお話です。随筆によると、幸田露伴は犬好きだったそうです。植物についても親子共々著書によく出てくるので、日常生活に身近だったのだろうなと思います。

犬の名前は「フェスツーン」略して「フェス」お父さんが名前をつけたのだけれど、とても洒落ています。

主人公と、初代フェスと二代目フェスとのそれぞれの生活が描かれています。昔の東京の暮らしも偲ばれます。

犬の何気ない仕草や普段の様子を描写した文章はさすが幸田文。文章でしっかり描きます。それによって笑いを誘われることが多々あります。硬質な文章で犬への愛情を表せるなんてすごいです。また、言葉のセンス(犬のフンを「巻きパン」など…)も独特で面白いです。

 

特に二代目フェスちゃんが読んでいると微笑ましいです。少し抜粋してみます。

 P76

豆腐屋のあとをついて行って離れず、なんのためかとおもえば是非あの天秤の荷のなかから水が飲みたいのだったり、羽根枕を見つけて大喜びで占領し、叱られると歯を剥くようなことももとのままだった。

ーー

どういうわけか按摩さんのうしろからついて行っていきなり、そのぶらんとした片手を舐めてびっくりさせたり、お医者さまの前にドアをあけて待っている自動車へちょいと乗ってみたり、ーー電車道のレールとレールの間で脱糞行為をし、轢き殺すわけにも行かない電車がいくらちんちんとやっても、悠々とかがんでい、…

 

犬好きは是非お読みください。

私はフェスちゃんが「かんかん」と吠える、という表現を読み、昔飼っていた犬もそうだったと思い出しました。

いまは飼えないですが、いつか動物と一緒に暮らせるといいなと思います。

 

本書は、たくさんの毛ものたちに会わせてくれる友人です。