橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

寺村輝夫『こまったさん』シリーズ

 

なつかしの「こまったさん」。

先月、書店にてキャンペーンが行われていたらしい。(うちは田舎のため大型書店がなく残念)

中川李枝子さんが著書で、25年以上経った絵本は本物と書いていらっしゃったが、こまったさんは誕生から39年だそうだ。

同じ著者の本で「わかったさん」(「しまったさん」もあった気がする…幻??)もあるが、私は初めて買ってもらった本が「こまったさん」であり思い入れが強いことと、何よりも挿絵がとても好きなため、今でも手元に置きたいのは「こまったさん」のほうだ。

こまったさんの服、花屋の外装、台所などが毎回違い、疲れたとき、手に取り眺めるだけで楽しい。

絵を担当されていた岡本颯子さんの別の絵本も読んでみたが、『ふしぎなおきゃく』『いつでもおなかがぺっこぺこ』など、絵がとってもかわいく素敵だ。子どもの頃に読んだ本の多くに絵を描かれていることに、大人になってから気づいた。画集や作家展などはないものだろうか…。

余談だが、雑誌『MOE』の「こまったさん」特集で、岡本颯子さんがコメントを寄せられていたのによると、『こまったさんのオムレツ』のなかでトマトオムレツをつくる男の人のモデルは著者の寺村輝夫さんなのだそうだ。あと『こまったさんのグラタン』で、こまったさんが着ている赤いセーターはご自身の物をモデルにされたそう。こまったさん、お洒落。

 

10冊出ているこまったさんシリーズで、自分の好きなお話を3つにしぼると『こまったさんのハンバーグ』『こまったさんのサンドイッチ』『こまったさんのラーメン』だ。

『ハンバーグ』は、夕飯時のご主人のヤマさんの言動が、現代では非難を浴びそう(それを言うなら、突然友人5人を家に連れてくる、鉄道模型に夢中で仕事を早引け、仕事後にパチンコ直行、などいろいろある。苦笑)だが、そんなことより「花屋のこまったさん」にちなんだお話が面白いのだ。動物たちがハンバーグを作るのだが、本物の合いびき肉で作るわけなく、バラとカーネーションというのが楽しい。そして踏切を越えた先にある架空の街の図や、たくさんの動物に花束など、色とりどりの絵が楽しい。先述した、夕飯時のヤマさんの発言を引き起こしたこまったさんのポカは、翌朝のハンバーガーへの布石なのだと、大人になった私はわかる。

『サンドイッチ』は、桃太郎のような流れが楽しく、鬼をやっつけ(?)る方法や、ヤマさん丸ゆで未遂や、打出のこづちなどのエピソード、焦るムノくんなど面白い。山の緑や花、サンドイッチや鬼の登場による色とりどりな絵がこれも楽しい。鬼の部屋も細かく描かれていておもしろいのだ。余談ながら、帽子屋での鏡に写ったピエロは大人になった今も謎。

『ラーメン』は、花屋のこまったさんが、ラーメン屋になってしまうドタバタな話だ。全然関係ないように見えて、花屋ならではのエピソードもあり、唯一無二!こまったさんの着ている緑の服をはじめ、全体的に絵の色が濃くて見ていると元気が出る。バイクに乗るんだ、と新鮮だった。

著者による本書以外のお話でも感じるが、オノマトペや音の言語化(『王様』シリーズのラッパの音など)が絶妙だ。リズムがよく、つい口に出してしまうし、記憶にも残る。『スパゲティ』におけるドラミング「ボンゴレボンゴレコントンノ」などがいい例であろう。

また、料理の作り方の挿絵では、今ならアルファベットで英語表記になってしまうであろう飾り文字が、平仮名や片仮名やローマ字の日本語読みなのが、個人的にはとても嬉しい。

 

こまったさんのお話は、「デイドリームファンタジー」と呼ばれているそうだが、ぴったりな響きだと感じる。読むと、日常にこのような楽しい白昼夢がすべりこめるような心の余裕を持たせてくれる気がする。

 

こまったさんは、大人になった今も、自分を楽しませ、心を和ませてくれる大切な友人である。