橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

エリック・ワイナー『世界しあわせ紀行』

今回、再読して2回目はより面白いことがわかりました。

ただの旅行記ではなく、楽園を求めて10カ国も訪れて綿密な取材と観察を行っています。大変な仕事だったと思います。

著者の姿は、中島敦悟浄出世』の悟浄を彷彿とさせました。

文章から、とても真面目で、物事をよく考えるお方なのだと伝わってきます。真面目で描写が細かいが故に可笑しさを感じて、とても魅力的な語り口です。また、自身の弱みや悩みもカッコつけずにさらけ出していて、親近感がわきます。

引用、参考にしている文献も数多く、本テーマにかける著者の意気込み、本気が伝わります。

著者はガネーシャ神が好きだそうなのですが、その理由が、知恵と学問の神様であり、どちらも自分にとって不可欠なものだからだと書いてあり親近感を覚えます。

10カ国をただ訪れるだけではなく、専門を活かして多くの人に密着インタビューを行っています。ときには、インドのアシュラム(修行道場)にも入り詳細なレポートを行っているように、各国のエピソードや体験談など内容が豊富で楽しいです。また、著者と関わる人たちとの交流も魅力的です。(ブータンでのタシ、モルドバでのルーバなど)

エピソードが豊富なのは現地の人だけでなく、楽園を求めて世界各国へ飛び出している同朋がたくさんいるおかげというのが大きいのではないかと思います。そもそも英語話者という立場はインタビューにおいて有利なのかもしれません。どこの国にも英語が使える人はいますし、イギリスでは発音の違いも識別できるのですから。パブでのエピソードも笑えました。とはいえ、モルドバでは言葉の通じないルーバと口論までしていますから、著者のそれまでの海外生活での経験とお人柄によるのだと思います。

そのため何度読んでも楽しめるのでしょう。

私は出不精なので、今後行くこともないであろう国々のことが垣間見られるのはとても楽しいです。

本書を読む人は、アイスランドに魅力を感じるのではないかと思います。著者もこの国に好意を持っているようです。

自分にとっての幸せも一緒に考えながら読み、著者の悪戦苦闘や試行錯誤を共有し、楽しい読書時間でした。また読みたいと思います。

余談ですが、「天才」についての別著は、本書ほどハマりませんでした。「幸せ」のほうが自分にとって興味のあるテーマだったからでしょう。この著者の本を訳す方はきっと苦労されたのではないかと思います。感謝を申し上げたいです。

最後に、、、本文庫の巻末にある「世界しあわせ対談」は大変不快です。その理由は、著者への敬意が全く感じられないこと、自分たちの言いたいことだけしゃべり散らして性急に結論づけていると感じたからです。ちょっと何言ってるかわかりません…。自著の宣伝企画なのかしら。もう今後読まなければいいだけなのですが、知らずに読んでしまい読後の満足感ぶち壊しになりました。

要するに、友人(本書)を蔑ろにされた気がして腹が立ったのでした。もし読まれる方は本書の内容とは別物だと思って読まれることをおすすめします。

 

本書は、世界各国を訪ねながら、自分にとっての幸せを考える機会をくれる友人です。