橘芳 本との交友

読んだ本の整理を兼ねた本との交友録です。

高野和明『ジェノサイド』

久しぶりの交友録。気づけば12月で驚いています。本は毎日少しずつ読んでいます。

そして、本書を久しぶりに再読。「超弩級のエンタテインメント(背表紙に書いてある)」を楽しみました。話を覚えているのに新たに楽しめる。なんて素敵な存在なのでしょう。

初めて読んだのは2015年。なぜはっきり覚えているかというと、人生においてまあまあ大変な時期だったからです。そんな中、本書は夢中で読ませてくれて、重たい日常、現実を忘れさせてくれました。

読後、映画を一本見たような満足感があります。そして、映画と違うのはその詳しさだと思います。演者が限られた枠と時間で表現するにはどうしても話の焦点をしぼらざるをえないでしょうから。その点、本(文字)なら世界は無限です。

全日本人に「読書習性」が備わっていると、苦しい人も元気になれるような気がします。読書にはそんな力があると実感を伴って思っています。

とはいえ、本書には目を背けたくなるような描写がいくつかあります。そもそも題名が題名ですから。

私は暴力場面が好きではないので、映画でもそういう場面は早送りします。例えば「燃えよドラゴン」ではボーロの独壇場場面を、「ポリスストーリー」は、曲は大好きで元気を出したいとき聴きますが、映画は痛そうで見ていられません。(「プロジェクトA」「蛇拳」「酔拳」あたりは大丈夫)

最近のアメリカのドラマなどは、視聴者がより興奮するようにスピードが速く、バイオレンスも過激になっているようで見ていると疲れます。ちょっと前に「リーサルウエポン」で、メル ギブソンが痛めつけられるシーンを見ているとき「今なら生ぬるいと思われるのだろうなぁ」と思う自分がいました。あと、「刑事コロンボ」をDVDでときどき見ると、テンポが穏やかで、ヒーリング効果があるように感じます。安心して見ていられるし、眠くなっていい感じです。

話が逸れましたが、本書は「戦争」についての描写が大半です。ただ、それは話の核になることで、また、今まで人類が繰り返し続けてきたことで、今も行われていること、今後も起こりうることなので、読むべしです。

また、戦争の裏側も見られます。以下はアメリカの副大統領が考えている場面。

文庫版 下P149

 …… 軍産複合体の中枢に身を置いていると、支配の論理があまりに単純なことに驚かされる。恐怖だ。戦争で儲けたい政策決定者は、他国の脅威を誇張して国民に喧伝するだけでよい。判断の根拠を国家機密の壁で隠してしまえば、マスコミもノーチェックでこの脅威論を垂れ流す。ただそれだけで、税金から莫大な資金が国防予算に回され、軍需企業の経営者たちの報酬は跳ね上がる。……

 

今起きている戦争でも、きっと同じようなことが起こっているのでしょうし、例に違わず、日本においても目に見えないところで起こっているのでしょう。

私は想像するだけしかできませんが、ただニュースを聞くだけじゃなく、疑う視点も持てたので本書を読めてよかったです。

そして、初めて読んだときも「あ」と思ったのですが、本書の登場人物の韓国に対する思想というか意見に反発する読者がきっと出て来るだろうな、という場面があります。

アマゾンレビューをのぞくと案の定です。星一つをつけている人はひっかかってしまったようです。

それで、読むのをやめてしまうのは非常にもったいないことだと思います。

特に、現代の大変な時代には、考えが違っても「意見の相違を受け止める」ところまではできるような努力が必要じゃないかしらと。本はその点、対人のためのいいトレーニングにできます。自分の軸がぶれなければ、どんな意見にも揺らがされなくなると思います。脅威としてではなく、他人の意見が捉えられるようになるというか。その軸をつくるためにも読書は大切です。

韓国に反感を持つ人も、作者のように韓国人の友人が一人でもいれば、国と一人一人の人とを分ける思考ができるはずなので、(「もののけ姫」みたいに)そこに気づければまた違う世界が見られるのではないかと思います。

茨木のり子さんも韓国について書いているという理由で、嫌う人がいるようで、そんな人は「なんて狭量なのだろう」とため息が出てしまいます。本に書かれているのは「読むあなた」の意見じゃなくて、「茨木さん」の意見なのですよよー。

高野和明さんは、『ジェノサイド』以降は本を出していらっしゃらないので、既刊の本は読んでしまいました。それと、高野さんが影響を受けた本として紹介していらっしゃった 立花隆『宇宙からの帰還』も読みました。「面白い本を書く人が紹介する本は面白い」は私の固いセオリーです。

いまアマゾンを見てみたら、なんと近日新刊が出るとのこと。タイムリーで驚いています。

このタイミングだと出版業界にいる人の宣伝ブログみたいに見えるかもしれませんが、私はただの本好きです。へろへろに忙しく過ごす日々を、読書でエネルギー補給している身として、うれしいニュースです。

本書は、新たな視点と、世界を舞台にした超大作映画を臨場感たっぷりに見ているような満足感をくれる友人です。